12. 25 民集22-13-3459)において、(A)就業規則変更による労働条件の一方的不利益変更は原則として許されないが、変更に合理性が認められる場合には、例外的に変更に反対する労働者にも変更の効力が及ぶ、という基本原則が示された。次いで、この基本原則の下で就業規則変更の合理性を判断する枠組みが、一連の最高裁判決( 大曲市農協事件 最三小判昭63. 16 民集42-2-60、 第一小型ハイヤー事件 最二小判平4. 7. 13 労判630-6、 朝日火災海上保険(高田)事件 最三小判平8. 3.
8.労働条件の変更 1 ポイント (1)労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、既存の労働条件を不利益に変更することは、原則的にできない。 (2)ただし、使用者が、不利益に変更した就業規則を、変更後に労働者に周知し、かつ、その就業規則の変更が「合理的」と認められる場合には、当該就業規則の内容が個々の労働条件となり、これに反対する労働者の労働条件も、変更後の内容となる。 (3)(2)における就業規則変更の「合理性」は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして判断される。 (4)労働者が同意した場合には、就業規則を変更することにより労働条件を労働者に不利益に変更することもできる。ただし、同意を得るためには、不利益変更の必要性、不利益の具体的な内容・程度等について、労働者に十分な情報提供と説明を行わなければならない。 2 モデル裁判例 第四銀行事件 最二小判平9. 2.
9. 7 民集54-7-2075)。ここでは、不利益の重大性や、特定層(55歳以上)の労働者に集中的に不利益を課すという変更後の労働条件の不相当性が重視される反面、多数組合との合意は重要な考慮要素とされなかった。このように、合理性判断において上述した枠組みのどの要素が重視されるかは、個々の事実関係に応じて異なってくる。 (4)就業規則による労働条件不利益変更に対する労働者の同意 労契法9条は、使用者に対して、「労働者と合意することなく」、就業規則の不利益変更によって労働条件の不利益変更をしてはならないとする。これについては、就業規則による労働条件の不利益変更について、使用者が、「労働者の同意」を得ている場合には、就業規則変更の「合理性」を問うことなしに、就業規則による不利益変更が有効となるのかという問題があった。この点は、 協愛事件 (大阪高判平22. 18 労判1015-83)において、就業規則による労働条件の不利益変更について労働者が同意した場合には、労契法9条により、変更後の就業規則の拘束力が同意した労働者の労働条件に及ぶが(この場合、労契法10条で求められる「合理性」は不問となる。)、労働者の同意には慎重な認定が必要であり、単に異議を述べなかっただけでは同意があったとは認定できないとの判断が示された。最高裁も、 山梨県信用組合事件 (最二小判平28. 19 労判1136-6)において、就業規則による労働条件の不利益変更における労働者の同意の認定は慎重になされるべきであり、同意の有無を判断するに際しては、不利益の内容・程度、同意に至るまでの経緯・態様、同意を得る前に使用者が十分な情報提供と説明を行っているか等が考慮されなければならないとしている。