検査部 2020年12月24日 胚培養士の奥平裕一です。 コロナ禍において、外出自粛や在宅勤務の増加、スポーツイベントの中止などによる運動不足、自粛期間中の精神的ストレスや暴飲暴食によって肥満化が懸念されています。実際に「コロナ太り」なる言葉が誕生し、多くの方が以前よりも体重が増えたという調査結果も報告されています。肥満による新型コロナ感染症の重症化も怖いのですが、生殖分野においても、やはり肥満はよくありません。いくつかの研究で妊娠率の低下と、肥満による配偶子や胚、子宮内膜環境への悪影響との関連が示されています。その中から今回は、女性のBMIと流産のリスクなどの関連を調べた最新の論文をご紹介します。 Female obesity increases the risk of miscarriage of euploid embryos. Fertility and Sterility. In Press. DOI:. 対象・方法 2016年~2019年に、スペインの複数の施設で実施された凍結融解胚移植3480周期を対象とした後ろ向きコホート研究です。全ての症例で、胚盤胞期(培養5もしくは6日目)に着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)を行っており、正倍数体胚のみ移植しています。女性をBMI(kg/m 2 )に応じて4つのグループ(< 18. 5:低体重、18. 5-24. 9:正常体重、25. 0-29. 9:過体重、≥ 30. 0:肥満)に分け、流産率、着床率、妊娠率、出産率などを比較検討しています。 結果 着床率、妊娠率、および臨床的妊娠率は、肥満の女性(BMI ≥ 30.
7%(22/97) 運動しないグループでは6. 9%(23/332)で、 妊娠率は39. 0%(16/41)、16. 0%(28/175) 出産率は24. 4%(10/41)、7. 4%(13/175) で、体外受精や顕微授精前の運動習慣は良好な着床率や妊娠率、出産率に関連することがわかりました。 また、治療成績に関連する因子の影響を統計学的な手法で排除した場合、治療前に運動週間のある肥満女性は運動しない肥満女性に比べて妊娠率は3. 22倍、出産率は3. 71倍でした。 これらの結果から、肥満女性の体外受精や顕微授精前の運動習慣は減量の有無にかかわらず、治療成績の良好な影響を及ぼすかもしれないと結論づけています。 肥満は女性の妊娠する力を低下させると言われています。 肥満女性は妊娠に至るまで長い期間を要すること、不妊症のリスクが高くなること、自然妊娠を目指す場合でも、高度生殖医療を受けて妊娠を目指す場合でも、肥満女性はノーマルな体重の女性に比べて妊娠率や出産率が低く、流産率が高くなることは、多くの研究報告があります。 当然、食生活の改善や運動で減量することが不妊症リスクの低下に繋がると言われていますが、減量の有無にかかわらず、治療前の運動習慣は体外受精や顕微授精の治療成績にどのように関連するのかを調べたのが今回の研究報告です。 因みに肥満女性の定義ですがBMI(体格指数)を30以上としています。 日本肥満学会では、BMIが22の場合を標準体重としており、25以上の場合を肥満、18. 5未満である場合を低体重としています。 結果は治療前に運動習慣のあった女性はなかった女性に比べて体外受精や顕微授精の着床率や妊娠率、出産率が良好だったというものでした。 BMI(Body mass index)は、身長の二乗に対する体重の比で体格を表す指数です。算出方法は、 BMI=体重kg/(身長m) 2 このBMIが男女とも22の時に高血圧、高脂血症、肝障害、耐糖能障害等の有病率が最も低くなるということがわかっています。 今回は、肥満について書かせていただきましたが、妊活にはもちろん痩せすぎもよくありません。 以下の図を見て頂ければわかりますが、BMIが19以下の方の 方が、妊娠までにかかる期間が長くなっているのがわかります。 妊活を頑張っている方は、なるべく体重管理も気を付けていきましょう!
Q肥満と流産 着床前診断を希望し、現在カウンセリング待ちの40歳です。 過去に1人目を自然妊娠、出産、その後三回続いて流産し貴院にお世話になることにしました。 三回流産の時に胎児の染色体検査はしていません。38. 39歳での流産でした。 質問ですが、私は高度肥満です。流産は関係ありますか? 私の経過からは、不育症の定義にははまらないと言われました。 貴院での採血でプロテインSが43%と低値を指摘され 今後、アスピリン、ヘパリンが必要と言われています。 また、カウンセリングまでに夫婦の染色体検査も考えております。 肥満と流産は関係がないと思います。 染色体に関しては異常が見つかる可能性はあまり高くありませんが、 万一異常が見つかった場合には対策が必要になります。 肥満は不妊に影響している? Q初診の時期 治療歴1年半の30歳です。御院への転院を希望しています。 精子と卵管造影には問題はありませんでした。 ただ多嚢胞性卵胞で腹腔鏡を1年前にしましたがそれでも不順は治らずです。 これまで、タイミング7回、AIH1回を行ってきましたが、 御院では体外受精も含めた治療を考えています。 これまで夜遅くまでの仕事もパートタイムへ替え、治療に専念するつもりです。 初診の場合、周期のどれくらいで伺えばよろしいですか? また、これまでの検査結果を持参すべきでしょうか? それと、肥満は不妊へ影響しますか? (ラパロの際、脂肪が多いと言われました…. ) 宜しくお願いいたします。 お越し頂くのは月経の最中以外ならいつでも結構ですよ。 もし、あればこれまでの検査結果をお持ち下さいね。無くても問題はありませんよ。 肥満自体は不妊に影響しませんが、逆に多嚢胞性卵巣の場合に 太りやすいのは症状の一つですのでやむを得ないかと存じます。
流産は非常に悲しいものです。 妊娠した喜びの後に 悲しみに包まれるためよりつらいです。 以前より肥満女性の方は流産率が高いことが知られていました。 ただ、その原因が ・受精卵の質を低下させるのか ・子宮環境に悪さをするのか わかってはおりませんでした。 下記の論文は正常胚を移植した方の流産率を BMI(肥満度)別に比較したものです。 対象は正常胚を移植した3480周期。 BMI(肥満度)別で流産率を比較しております。 ・低体重 BMI 18. 5未満 155周期 ・通常体重 BMI 18. 5~24. 9 2549周期 ・太り気味 BMI 25~29. 9 591周期 ・肥満 BMI 30以上 185周期 ※BMIだとわかりにくいので体重にしますと 20~40歳の日本人女性の平均身長が約158cmですので その場合のBMI30の方の体重は74. 8kgです。 結果です。 BMI30以上の方は有意に流産率が高かったです。 妊娠率は変わりませんでしたが 流産率が高いため 生産率は有意に低かったです。 グラフにはありませんが採卵1回当たりの正常胚の獲得数は 有意差はありませんでした。 以上から筆者らは肥満の方が流産率が高い原因としては 子宮環境に悪影響を与えていることが 原因と推測しております。 他の流産後の胎児絨毛染色体検査を調べた報告でも 肥満の方は正常胚でも流産しやすいことが 報告されております。 冒頭にも書きましたが、流産はできる限り避けたいです。 流産された患者様の涙を見るのは 私もとてもつらいです。 さらに肥満は妊娠中の合併症 ・妊娠糖尿病 ・妊娠高血圧症候群 などを増加させます。 そのため今後の当院のBMI 30以上の患者様の治療方針ですが ・タイミング・人工授精をご希望の患者様については 減量後治療開始させていただきます。 ・体外受精をご希望の患者様については 採卵は通常通り行わせていただき 胚移植は減量後に行わせていただきます。 体重を減らすことは大変なことでありますが 流産を避け、安全な妊娠生活を送るために お願いいたします。 院長 菊池 卓